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論文の執筆・投稿Q & A
論文を書くことはとても大切なことです。それは個人の業績として評価されるためです。「どのような論文をどれだけ公表しているか」は、その人の専門領域や知見を明らかにする手段であることはもちろん、臨床家、研究者、教育者としての世界共通の評価基準にもなります。 自己の研鑽はもちろんのこと、業績は、研究費の獲得や新しいポストの獲得、役職の昇進・昇格などに直接関わってきます。臨床家や教育者であれば、臨床や学生指導など多くの業務があり、論文を書くことが主要評価ではない場合もあるかもしれません。しかし学術領域では論文以外での業務を評価することは難しく、論文の質と量が専門性の評価に大きく影響するのが現状です。なぜなら論文として研究をまとめることは、研究の計画・実験・分析・英語・論文執筆など総合的な研究遂行能力が求められるためです。
日本の臨床心理学では、これまで事例報告や質的研究などが主であり、必ずしも学術誌への英語論文投稿が重要視されてはいませんでした。しかし普遍的な学問的価値を高めるためには、厳しい世界的競争が求められます。また、基礎心理学を重視するカリキュラム編成が行われている公認心理師においては、基礎的な科学知識としての心理学が求められる傾向は今後も高まっていくと予想されます。
これまでは、論文だけでなく一定の経験や社会的活動によって、研究者としての評価がなされることも多々ありました。しかし、博士学位大量生産時代と言われる現代では、少子化によって先細りするアカデミックポストに就くために、博士学位や同等の研究業績が求められる競争時代になっています。今後は世界的に見ても、このような傾向が強まっていくことが予測されます。 この項目では、海外雑誌への投稿を前提とした英語論文の執筆を中心に考察したいと思います。
Q1 英語論文を書くためにまずは下書きを日本語で書くか、直接英語で書くべきか
A1 日本語で下書きを書くべきです。英語を母語とする方や、英語の方が理解しやすい方を除き、日本語で書いた方が適切です。なぜなら、日本語の方が「自分が何を言いたいのか、自分の言葉で説明ができるから」です。直接英語で書いてしまうと、自分の言いたいことよりも英語でのテンプレート文や、簡潔な表現となってしまい、言いたいことが抜けてしまう可能性があります。また論文執筆には一定の時間を要するため、前に書いた部分を振り返ったり全体を俯瞰する際にも日本語で下書きを残した方が早く正確に理解できます。また、英文雑誌にて採用されず日本語の学会誌に投稿するなどの場合(二重投稿には十分気をつけなければなりませんが)にも、日本語の下書きがあると有用です。その意味もこめて、日本語でのポスター発表などを行っておくと研究の構成・考察の整理などの点において大変役立ちます。
Q2 英語の論文執筆能力がない。英語論文を執筆する自信がない。
A2 どんな研究者も1本目の論文からスラスラと書けるわけがありません。Q1のように日本語の下書きを見ながら、英語辞書やテンプレート文集を見ながら日本語を一文一文訳していく必要があります。このとき、「日本人の書いた論文だからネイティブには通じないのでは」という心配が出てくるのは当然です。しかし英語が達者で、英語論文を大量に公表している日本人研究者も必ず「ネイティブチェック」を利用します。ネイティブチェックとは、英語を母国語とした方に英語の最終チェックをしてもらうことです。これはやはり、英語を母語としない日本人の宿命と言えるでしょう。英語の複雑な文法や細かな表現などは、英語を母国語としない場合はどれだけ勉強してもわかりません。ネットで「論文 ネイティブチェック」と検索すれば、業者から個人まで多くの英語圏の方が有料で引き受けてくれます。英語ネイティブの知り合いに格安で依頼するのはいいですが、多くの方が有料で専門業者に依頼します。ネイティブチェックを依頼する業者や人を選ぶときに注意すべき点は、その方があなたの研究領域のことを十分理解しているかどうかです。ネイティブチェックの他に、一から論文の執筆を代行してくれる場合もあります。投稿する雑誌によっては翻訳サービスなども有料で請け負ってくれる出版社もあります。代行サポートを受けることは悪いことではありませんが、お金がかかるのは言うまでもありません。その他には、どれだけ英語が得意でTOEICやTOEFLのスコアが高い日本人が知り合いにいたとして、母国語ではなければ依頼しない方がいいでしょう。
最近では、日本語で論文を書いてしまい、一気にGoogle traslate(Goolge翻訳)にかけてしまう方も増えてきました。2016後半くらいからGoogleの翻訳精度が一気に向上したのは有名です。もちろん、Google翻訳をそのまま投稿することはできませんが、そのままネイティブチェックに出すことは可能かもしれません。コツとしては、日本語→英語→日本語と二重に翻訳をおこない(Back-traslation)、最後に日本語が正しければ、ほぼ英語話者には通じる英語となります。さらにコツとしては翻訳前の日本語を短文にして主語と述語を明確にするだけで精度は飛躍的に向上します。もちろん翻訳後も英語をみて細かな調整は必要です。英語論文もハードルが下がってきたように感じませんか?是非挑戦しましょう!
Q3 どの雑誌に投稿すればいいか分からない
A3 ある程度論文を執筆できたら、同時に投稿する学会誌を選ぶ必要があります。もちろん、執筆前などできるだけ早い段階で雑誌を選択した方が良いです。あなたが執筆している論文の内容を扱っている雑誌を探しましょう。研究内容、研究手法、対象とする集団などを考慮し、行動系、依存系、生物系、心理療法系、青年系、老年系などの分野や、研究方法、対象者などいくつかの切り口から探る必要があります。もし指導教官やベテランの共同研究者がいれば、どの雑誌が適切かまず尋ねてみるのがいいでしょう。自分で雑誌を選ぶ場合は、類似の先行研究がどの雑誌から発行されているのかを調べることが大切です。
Q4 雑誌や論文にもグレードがある
A4 もしあなたが漫画家であれば、より影響力(インパクト)のある「少年ジャンプ」や「少年サンデー」「少年マガジン」など有力出版社が発行し多くの読者がいて、歴史や信頼がおける雑誌に掲載を希望されると思います。一方で、そのような雑誌に掲載するためには厳しい競争を勝ち抜き、目の肥えた編集者に選ばれる必要があります。そこで掲載されなければあまり読者のいないマイナー雑誌や同人誌などを選ばなければなりません。学術の世界も同様です。雑誌にはそれぞれにグレード(点数)が決められています。その中心となるのがインパクトファクター(IF)と言われるものです。このIFによって、研究の質が評価されると言っても過言ではありません。医学部などの教授選ではこれまで獲得してきたIFの合計点が採否を左右する大きな指標となります。これまで獲得したIFの合計点数が、その人の研究能力としてみなされています。 近年、このIFで研究者を評価することが適切なのかという議論があります。IFだけでは評価できない部分もあるでしょう。しかし現状では世界共通の評価基準としてなかなかIFに代わるものがないのも事実です。IFというのは簡単に言いますと、引用回数が多いということです。つまり高いIFの雑誌はより多くの人が目にし、その分野で重要な研究ばかりが掲載されるということになります。例えば一般科学誌であるNatureやScienceなどは数十点と夢のような点数です。このような雑誌に乗れれば、非常に有望なポストにつけることでしょう。反対に、IFが低いということは多くの人に読まれることはないということになります。しかし、研究の価値というのはIFで測れないことも沢山あります。少数の学会員しかいない雑誌であっても、素晴らしい論文はありますので、IFは共通の評価項目という側面でしかありません。NatureやScienceのような巨大一般紙ではなく、精神医学系や心理学系などの雑誌もたくさんあります。きちんと適切な雑誌を選び、同じ研究をしているライバルや仲間など求める人に見てもらうことが大切です。
Q5 論文を投稿するのには時間とお金がいる
A5 論文には査読(peer review)が必要です。査読がない雑誌や大学や施設の紀要もありますが、それはあまり評価されません。査読には複数の研究者が関わっており、時間とお金がかかります。査読に関わる多くの研究者は、大学の教員や研究者など、多くが査読とは別の業務をおこなっています。そのため英語論文を投稿し、公表されるまでには数ヶ月から数年、無料から数十万円の経費がかかります。通常の書籍などでは読みたい人が購読料や書籍代を支払いますが、近年の学術論文では投稿者もお金を払う必要があります。しかし雑誌や形式によっては、投稿無料、査読が早い、など様々に特徴がありますので、メリット・デメリットを調べてから投稿雑誌を決めましょう。中には怪しい雑誌もあるので注意が必要です。
また最近では手数料をとって出版をおこなう出版社に対する利益優先の姿勢を批判する声も上がってきています。研究の資料となる論文は、お金がある特定の人だけが出版でき、購読するものとなってはいけないという考えです。研究の資金を国が出していることも多く、研究の成果は広く国民が見ることができなくてはいけないという考えもあります。そのため研究結果を出版社が独占するのではなく国が公表したり、大学がリポジトリで公表したりする場合も増えてきています。しかし著作権など多くの問題があり、一部の流れとなっているのも事実です。
Q6 利益相反Conflict of Interest (COI)を明確にする必要性
A6 COIとは個人の利益と研究の責任が相反する事態のことを言います。例えば企業などからお金、物品提供・貸与、技術的サポートなどを得ている場合は、ポスター発表でも、論文でも、その旨を明確に公表する必要があります(サポートを得ている場合にも、そうでない場合にも開示することが求められます)。これは研究の公正性、透明性という点でとても重要なことです。特定の企業から依頼された講演料をもらった場合や、研究の機器を借りた場合、何らかの解析をサポートしてもらった場合などです。研究の結果が、それら企業などの意向によって左右するのは言語道断で研究者失格です。こうした利益相反行為が社会的大問題になったことも少なくはありません。 ポスター発表では、ポスターの末尾に「利益相反はありません」と明示し、あれば「株式会社◯◯から技術的サポートを受けた」などきちんと明示しましょう。論文の場合は、多くは投稿の際に著者全員のCOIの署名を提出するなどの場合が多いですし、論文中にも明記しなければならない場合があります。今後産学連携など、企業と共同で研究する方も多いと思います。個人的利益を得ることが悪いことではありませんが、倫理的観点を持ち、堂々と明示すれば問題はありません。
Q7 倫理委員会への申請は必要か
A7 人を対象とする研究の場合、どのような研究でも倫理委員会への申請は必須です。所属する大学や研究施設での倫理委員会への提出が最も適切ですが、小さい施設など倫理委員会が併設していない場合は大学医学部の外部審査を依頼するか、医師会などの倫理審査サービスを利用するのも適切です。医学系の話が多いですが、基本的には人を対象とする研究はすべて文科省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に準拠する必要があります。観察研究だから必要ない、健常学生を対象としたアンケート調査だから大丈夫という自己判断がもっとも危険です。特に心理学科では倫理講習や倫理審査委員会が十分に用意されていない大学も多いかと思いますので注意が必要です。 http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf